■ 時間軸:墓参り後
■ バチルダ・バグショットのインタビューっぽい何か
■ 2部で登場していない人物や固有名詞が平然と入り乱れている
■ 会話と効果音のみ
"Luka" and others
変な形をした玩具だね、近くで魔法を使うと壊れるかもしれないなんて、まるでマグルの道具じゃないか。
今じゃあインタビューもこんな物に頼っているんだね。
私の若い頃は自動筆記羽根ペンすら無くて、皆必死で手書きしたもんさ。
いい香りをした紅茶だねえ。砂糖は1つだけ貰おうかね、ミルクは要らないよ、私はブラック派なんだ。
ミルクは無しで砂糖は1つ、承りました。
こちらは今日の為に用意させて頂いた、中国安徽省で生産された祁門紅茶の特級品です。こちらのアップルキャラメルケーキと一緒にどうぞ。
それでは、本日は宜しくお願いします。ミス・バグショット。
ええ、ええ。こちらこそ。
ブランデーも入っているのかい。少し強いが私好みだよ、このケーキ。
ところで、どこ雑誌の、なんて名前だったかね。編集長さん。
ジョーンズです、ミス・バグショット。
デイヴィッド・ジョーンズ。シェアード・ユニバース誌。
そうだったね、編集長さん。
あと、もう少しゆっくり喋って欲しいね。耳も最近、遠くなってきていてね。目は元々悪いけど、ほら、今も黒い靄が向こうに見えるんだ。
サング……ええ、承りました。ミス・バグショット。
では、早速ですが。10年前の、あの日の事を伺っても?
ああ、なんて酷い記憶だろうね。あの日の事は、昨日のように覚えているよ。
ネビル・ロングボトムがやっつけたんだ。例のあの人が消えて、皆が浮かれていたのさ。誰だってそうだっただろう。なのに、ああ神様! なんて酷い仕打ちを!
とても辛い記憶なのですね。ミス・バグショット。
辛いなんて! そんな言葉では、足りないよ。
何であの子達だったんだろうねえ、ポッター家の子は親子揃って良い子だったよ。リリーに、ジェームズに、ハリーに。
特に私はリリーと仲が良くてね、本当に器量良しの良い子さ、あの子と一緒にハロウィンパーティの計画も立てたんだよ。箒に乗るのは大人顔負けなのに、歩き方はたどたどしいハリーに魔法使いの格好をさせてね、小さな籠を持たせて、両親と家に来るように言って。
ハリーは人見知りしない子でね、私を見掛けるとリリーの膝の上から降りてよちよち歩きしながらね、ばあば、ばあばと嬉しそうに来てくれたんだ。
どうぞ、ミス・バグショット。
ありがとう、編集長さん。ハンカチを差し出されるなんて何年振りだろうね。
あんた良い男だね、どれ、ちょっとこの婆に近付いてみておくれ。年寄りだから目が悪いんだ。
取材の続きに参りましょう。
それで、あー……ミス・バグショット、見慣れない人影を目撃したのが。
ハロウィンの翌朝さ。私じゃなくて、近所の子供がね。名前は忘れたが、もう成人して村の外に出たマグルの子だよ。
マグルは朝の早くに牛乳を配達するんだ。家の扉の前に置かれた牛乳を家人が取りに行くんだが、その子がハロウィンの格好をしたままの大人を見たんだって。私は子供に好かれるみたいでね、学校からの帰りに近所であった事を教えてくれる子が沢山居たんだよ。
こんな目になって随分経つからね、もう20年以上新聞も取っていないよ。今、私に色々と教えてくれるのは村の子達さ。
その子供は、人影の顔を見ましたか?
見たと言ったよ。4人だ、男が3人、女が1人。
男はチビと、神経質そうな奴と、大柄だった。女は黒髪の、まあまあの美人だったらしいね。リリーも美人だったから友人だろうね。思えば、彼等が最後に正気の3人に会ったんだろうね。
なのに、シリウス・ブラックがその後に来て、何も彼もおかしくなった。
見たのですか? シリウス・ブラックを。
ああ、ポッター家から闇の印が上がったって、村中の魔法使いが騒いだからねえ。私も慌ててそっちへ行ってみたら、中心に居たのがシリウス・ブラックさ。ハリーを抱いてね。
ハリーは本当に、こんなに小さな赤ん坊でね。騒ぐ大人達の中で、両親に何があったかも判らずに、ぐっすり眠っていたよ。
ハリーは、怪我も全くない状態で?
ああ、きっとリリーとジェームズが命懸けで守ったんだろうねえ。傷一つない、綺麗な肌のまますやすやと眠っていた。それだけが救いだったよ、本当に。
なのにあの男、シリウス・ブラックはね、それは酷い事を押し付けて来たんだよ。
その辺りを、詳しく、お聞かせ願えませんか。
ハリーを抱いていたシリウス・ブラックは最初はとても愁傷だったよ。ハリーを守る、引き取って一緒に暮らす、リリーとジェームズの分まで愛してやる、裏切り者は判っているから両親の敵を取って必ず裁くと。
裏切り者ですか。それは我々の業界でも初耳です。
是非、その辺りも伺いたいのですが。
詳しくは私も知らないよ、誰が何を裏切ったのか、シリウス・ブラックは何も言わなかった。血が昇ってそれ所じゃなかった。
さっき編集長さんに話した4人組の話をした途端に文字通り飛び出して行ったよ。こんな年寄りの、遠い耳が張り裂けそうな位に煩い乗り物に乗ってね。
それで、私の手には、まだ小さなハリーが残された。判るかい、こんな老婆に生まれたばかりの子供を押し付けて、あの男は! 消えたんだよ!
何が大切にするだ、何が守るだ。私の手元にはおむつも無ければ、あんな小さな子に食べさせるものも無かった。何も、育てられるような物は無かったんだ。
可哀想なハリー。村人達はリリーとジェームズに掛り切りで、私の腕に抱かれた小さな命は後回しにされたんだ。
辛うじて気付いて助けてくれたのは聖ジェローム教会の牧師だけだよ。手紙を届けたいと言ったら梟を用意してくれたよ。
ああ、勿論大丈夫さ。牧師は私が魔法使いだって知っているから。あの教会の牧師は代々スクイブでね、普段は全く役に立たない木偶の坊だけど、あの時初めて出来損ないのスクイブも役に立つ事があるんだと思ったよ。
何だい。ドアを叩く音がするね、誰か来たのかね?
いいえ、ミス・バグショット。窓を叩く雨粒の音です。
そうかい、今日は一段と激しいね。
そうですね。どうぞ続きを、ミス・バグショット。
ああ、アルバス・ダンブルドアにね、手紙を届けたんだ。
アルバス・ダンブルドア、ですか?
私は、一応歴史家として名前もそれなりに知られているだろう。だからね少しばかり面識があったんだよ。本当に、誓ってそれだけだよ。
私も1世紀以上前にはそれなりに鳴らした魔女だったが、10年前と今じゃあ余り変わりなくて、見ての通りだからね。詳しい説明なんて出来ないから、助けてくれって一言送ったら、姿現しですぐに来てくれたよ。本当に彼は良い子だよ、ハリーをリリーの姉に預けると手続きしてくれたんだ。
失礼。ダンブルドアは何故既存のセーフティーネット、魔法使い遺児保護機構を利用しなかったのでしょうか。
両親共に魔法使いで、箒に乗れたのならばハリー自身も間違い無く魔法使いでしょう、保護を受ける資格は十分だったのでは。
魔法使い遺児保護機構! あんな場所に預けるなんて狂気の沙汰だよ!
いいかい、あそこは普通の魔法使いが運営しているがね、最大の出資者は純血至上主義を掲げるブラック家だ。
今は誰がやっているか知らないが、私が若い頃にはエラドーラ・ブラックが支配していてね。嫌な女だよ、ブラック家の家訓にハウスエルフの首を刎ねる伝統を作ったって噂の女さ、あれはホグワーツに居た頃から頭がおかしかった。
今思い出しても怖気立つよ。動物や魔法生物の首を切り落として実験するのが好きな、悪趣味な女でね。脳味噌を瓶詰めにしたり、首と胴体を別々に生き永らえさせる魔法と作ったりとかね。
あそこに入れたら、呪文や魔法薬の実験動物にさせられるか、さもなければ魔法使いこそが優良種だと洗脳されて、スパイになるかさ。人間として扱われない、死ぬよりももっと酷い目に遭う。
しかし、ダンブルドアが預けた先、リリー・ポッターの姉と言うと、マグルの間でも問題になった女性ですが……。
しつこいね。ダンブルドアは優秀な魔法使いで天才だけど、未来を予知出来ないんだよ。ハリーが死んだのはその姉の所為でアルバスは悪くないだろう。
そんな事も判らないのかい。よく編集長なんてやっていられるね、ええ?
ハリー・ポッターが死亡したとは、こちらでは掴んでいない情報なのですが。事実なのでしょうか。
いい加減にしないかい、編集長さん。
何なら今から教会墓地へ行ってみるかい。ポッター家の合同葬儀をして、あそこにはハリーの墓が建っているんだよ。
それとも墓だけ立てられてハリーは生きているとでも言うのかい。そうだとしたらハリーはとんだ親不孝者だよ。生みの親の葬儀に来ないなんて、碌な人間に育たなかったのだろうね。
そう言えばシリウス・ブラックもだ。あの男も葬儀に来なかったよ、ついこの間、偶然逢ったが、罪悪感の欠片すら抱いてなかったよ。酷い男さ。
ええ、全て貴女の仰る通りです、ミス・バグショット。どうか、私の勉強不足をお許し下さい。
所で、伺いたい事があるのですが、シリウス・ブラックから預けられた際、ハリーはどのような服を着ていましたか。
変な事を聞くね。それが重要な事だとは思えないが、まあ、いいさ。
普通の格好じゃあ無かったよ。目が余り見えない事を差し引いてもハリーの下着を変えるのには苦労したからね。
あれは、なんと言えばいいのか判らないが、革の、分厚いマグルの服を着込んでいたよ。そうだそうだ、思い出した。洗濯をしている間にハリーをアルバスに預けたから、今も手元にあるはずだ。アクシオ。
成程、ありがとうございます。
これはいけない。予定していたよりも長話をしてしまいました。
何だい。私は別に構いはしないよ。まだまだ話し足りない位だ。
いいえ、ミス・バグショット。健康を第一に考えましょう。辛く悲しい記憶を思い出す事は、本人が思っている以上に体と心の負担となってしまうのです。
また次回、近い内に続きをした方が良いかと。ほら、立つのも辛いでしょう。こんなに疲れていらっしゃる。
あ、ああ。本当だ。
そうだねえ、ポッター家の事を思い出すとどうしても気が高ぶって、力が入ってしまうのかねえ。
じゃあ今は、お言葉に甘えてもいいかね。ジョン編集長。
ジョーンズです、ミス・バグショット。
録音は上手くいったな。近くで呼び寄せ呪文を使われた時は血の気が引いたよ。サングが視界に入ってた事は、まあ、驚くと言うより呆れたけどな。でもサングは昔から隠密には向かない奴だし、知ってて連れて行った俺に問題がある。何か問題が起きたらちゃんと責任は取るよ。
さて。元気か、親愛なる従兄殿。俺は元気じゃない。編集長の真似事なんてクソ食らえだ、未だ肩が凝って仕方がない。
ストウアウェイの使い心地は最高だろう、くたばり損ないでも使い熟せる高品質な物をジョイが選んだんだ、一言だって不満を漏らすなよ。そんな糞を口から垂れ流してみろ、鉛玉でグレイ・ヘアからド派手なジンジャーにしてやるからな。
最重要事項は伝達したから仕事の話に戻るぞ。
聞いて判るだろうが、指示された最低限はこなして来た。再訪が必要なら言ってくれ、付け加えると、2回目以降は取材形式じゃなく尋問形式で指示された方が大変俺好みだ。
よし、真面目に行こう。耳の穴かっぽじって聞け。
1981年11月1日の目撃者は既にロンドンにて捕捉。現地調査でその他の目撃者も2名、把握している、いずれもマグルだ。ミルクフロートの運転手と犬の散歩をしていた村民で、双方、現在もゴドリック・ホロウに居住している。人払いした後に俺が取材して、その隙にサングが背後から記憶を失敬したから、忘却呪文は施していない。
スティング・ワンから疑似記憶等の改竄痕は見られずとの報告が上がっているが、俺はその辺りが全くの専門外だからな。詳細はそっちで確認してくれ。
判っているとは思うが念の為、一応言っておくぞ。今回手に入れた物は現時点で全く使えない。
バグショットはボケちゃあいないが、情報収集方法が偏り過ぎてる上に、かなり耄碌してる。真っ当な頭の使える証言を持った方は魔法界にとって偏見と差別対象であるマグルだ。
という事で、だ。独断でアズカバンのシリウスからも当時の記憶を採取させて貰った。後々面倒な事になりかねないから俺は行ってないぞ、そもそも俺が行ったら多分心臓麻痺か脳梗塞か何か意味不明な原因で死ぬ。
大丈夫だ、昔と違ってお前が横車を押さなくても上手く行ったよ。皆成長してる、まあ、サングは特別だから計上出来ないし、他はそもそも成長しそうな奴等を選抜して財力で強化したから当然なんだけどな。
安心するには残りあと1つ、お前が気力を振り絞ってもう20年か30年ばかり生きて大往生しない限り年少の俺が死ねないって事くらいだ。
おい、頼むから死んでくれるなよ、若い頃に比べれば体力は落ちたが、それでも狩猟とクリケットが出来なくなるまで時間はあるし、ロザリーの旦那が今度作る新種に俺の名前を付けてくれるそうなんだ。判るか、俺はまだまだくたばるつもりはないんだ、残り少ない人生を大いに楽しみたい。
よし、宣言出来たところで話の続きだ。
シリウスへの接触者はロザリーと彼女の部下が2人の計3名。記憶の採取は魔法使いの看守立会の元で行われた。裁判で使う予定だと伝えてあるから暴行や脅迫はやっていない筈だ。少なくとも本人達はそう言ってるからな、俺は信じる事にしたよ。ロザリーはアズカバンに何度か警護指導しに行ってるからコネもあるし、何より肝の座った頭の良い娘だ。自分から顧客を手放す真似はしない。
それで、だ。報告によるとシリウスが暴走した原因はペティグリューの裏切りと言うよりも、ジェームズ・ポッターへの拷問とリリー・ポッターへの強姦らしい。バグショットはああ言ったが、まあ、サングに気付かないくらい視力が衰えていたからな。目撃証言の正確さなんて得てしてそんなものだ。
ブツは他の奴等の記憶と同じようにスティング・ワンで保管してあるから、時間を作ってクリーチャーを寄越せ。判ってるとは思うが梟は使うなよ。
まあ、しかし、さっきも言ったがな、こんな物全く使えないぞ。相手はあの無罪判決否定派、上の顔色ばかり伺って自分の給料しか考えないウィゼンガモットの屑共だ、一体どんな理由を引っ提げて上訴するつもりだ。
魔法省所属のイレブンか、ホグワーツ所属のプライマリを使って英国全土をスキャンするくらいしか俺は思い付かないぞ。万年火力不足のスティング・ワンは広範囲走査に向いてないからな。
その辺り、きちんと考えているんだろうな。なあ、頼むから考えていてくれよ、お前はこういう事に関しては最悪な企てを断行する男だからな。悪口かって? 勿論だ、それ以外に何がある。
ああ、餓鬼の頃から結局こうなるんだよ、どんな媒体で連絡しあろうと愚痴ばっかり出て来る。なあ、お前とは親子の年齢差で、俺はもう年金暮らしの老人だぞ。何でこう成長って言葉と縁がないんだ。
もういい、今度家に飲みに来い、とっておきのスコッチを開けてやる。酒の肴は無しだ。その代わり、この半世紀溜め込んだ愚痴をたんまり聞かせてやるからな。
次に、だ。
ベビー服はバグショット家で確認した物と高確率で一致。保存状態は悪かったが、プロテクター入りのかなり上等な革製品で、手製の刺繍も施されていた。1歳児用のレーシングスーツだな、当然既製品じゃない、オーダーメイドだ。
ツーリング趣味のジョイがそちら方面で矢鱈詳しくてなあ、1日かからず店と購入者がシリウスである事を特定したぞ。彼女は見かけに依らず一途と言うか、言葉は悪いがフリークだな。あれは。
ついでにシリウスのオートバイ……少し待ってくれ、俺はこの方面は疎いんだ。
トライアンフ、は会社名だな。その位は流石に判る。ファーストボニー。伝説のボンネビル、59年? 何が伝説なのかよく判らんが、名前から性能までシリウスを刺激する言葉が羅列されている。こいつが違法改造のオンパレード。姿を消してみせたり、空を飛んだりな。なあ、何かを思い出さないか。
我らが愛しのアルフも、そうだったな。
あれは良い男だったよ、恒星の名前を数多く持っている癖に陰気なブラック家には珍しい、本物の星だった。俺とお前と伯父上が揃って目を掛ける位、本当に、良い男だった。出来る事なら俺の寿命を分けてやりたかったよ、あいつの一生は短過ぎた。なんでどこの世界でも良い奴から死んで行くんだ。
まずい、泣けて来た。少し待て。この歳になると涙腺が緩み切って……何で俺はカセットテープなんて使おうと思ったんだ、畜生。
落ち着いた、という事にしてくれ。
そのボンネビルだが、違法改造された時点でスティング・ワンへ常時追跡指示が出されていた。そうだよ、アルフだよ。家族から爪弾きに合った叔父を愛してくれた甥っ子は、同じように家族から爪弾きに合った自分の甥の事も死ぬまで心配していたらしい。
1981年10月31日から11月1日にかけて、ボンネビルはイングランドを中心に幾つかの大都市の上空を走っていた。魔法界とは比べ物にならないマグルのハロウィンの賑わいを上空から見せていたんだろうな、防寒魔法や固定魔法が同所同時刻でイレブンに捕捉されている。こっちは魔法省の正式な記録だから申請して複製を確保しておいた。消されるとまずいからな、そっちでも確保しておいてくれ。
今現在報告出来るのは、その位だな。
DNA鑑定は……いや、その前にDNAは判るか。判らないのならマイケル・クライトンのジュラシック・パークでも読んでおけよ。大列車強盗を書いた作者だ、知らないか。ジェフリー・ハドソン名義で緊急の場合はを書いたアメリカ人作家だと言えば判るか。判らなくてもいいか、本屋の店員か図書館の司書にでも訊け。再来年映画化する予定の本だからな、絶対に置いてある。だけど設定全部を鵜呑みにはするなよ、よく出来たファンタジーだからな。
で、そのDNA鑑定は時間が掛かり過ぎて無理そうだから、血液鑑定に回した。うんざりする量だが、オルフの伝手を使ったから8月迄には結果が出る筈だ。
それと、既にクリーチャーから上がってるかもしれないが、念の為報告しておく。
1981年11月1日、ポッター家のハウスエルフがプライマリにペティグリューの捜索を依頼したらしい。
不確定なのはそのハウスエルフが既に死んでいるからだ、ああ、死因はプライマリを私的利用した罰による自殺だ。共同墓地で名前も確認した。
ハウスエルフは有能だが繊細で、命令後は特にメンタルケアに気を配らないとあっさり死ぬ種族だって情報はあいつの頭の中には入っていなかったらしい。せめて命令されたのがクリーチャーだったらな……主人から命令を受けていれば全責任は主人のものになるって言い訳が立つんだが、シリウスはそのハウスエルフと仲が良いだけで正式な主人ではなかったからな。
廃人にされた主人達の為に老体に鞭打って独断で行動したって話の筋の方が美談だけどな、それはない。ハウスエルフにペティグリュー捜索を依頼したシリウスの記憶も確認された。
プライマリはイレブンやスティング・ワンと違って紙媒体に一切情報を残さないから証拠としてはかなり弱い。が、全く、たかだか10年前で助かったよ。当時の状況を把握し、プライマリとして動いたハウスエルフはほとんど現役だった。
って事で、こっちのシリウスの株は値幅制限の下限まで下落した。まあ、年端も行かない内にブラック家の甘い蜜を吸えるだけ吸って、成長したら責任も果たそうとせず家を飛び出して好き勝手振る舞った屑に信頼なんてものは元々存在していないけどな。放蕩息子のたとえ話を大人しく拝聴して涙する清い心は、とっくの昔に尻の穴から出て行ったよ。
でもシリウスがブラック家の正統後継者なのは事実だし、どんな屑であろうと冤罪で裁かれるのは許せないってのが俺達の中で一致している意見だ。当主の椅子には座って欲しくないけどな。
オペレーション713についても話したかったが、テープが足りないな。今の所はプランAで展開はほぼ良好。ガスピーが金にだけは汚いチキンの国の野郎共に吹っ掛けられてるが、9月になればサングの手が空くからそっちで処理するつもりだ。
デヴォンの屋敷でも動きがあったが詳細はB面、つまりカセットテープの反対側で聞いてくれ。カセットテープを取り出して、表裏を逆にして、頭まで巻き戻して、再生だ。それでも判らないなら取扱説明書に書いてあるから読め。
ああ、畜生。面倒だな、今度から報告は書類に戻す。書かなくて良いのは楽なんだけどな、咽喉が痛くなるし、一々反転や巻き戻しをして聞き返すのも面倒だって気付いた。今回はこれで勘弁してくれ。編集長っぽい、ちょっとした遊び心だよ。別に用が済んだらテープを燃やすつもりだろ、なら問題ないじゃないか。
鏡像背後霊の案件の経過報告からはきちんと書類形式に戻すから、そう怒るなよ。
肝心な事を忘れてた。
今度のパーティ、フランが欠席するのは本当か? 彼女は多忙だから欠席自体は判るが、問題が発生するだろ。判るか、唯でさえ少ない女性がだな、そりゃあもう激減するんだよ!
こっちの出席面子は俺とオルフ、サングにガスピーにロザリーの旦那だぞ。ジョイとロザリー以外は全員が花も恥じらうどころか立ち枯れる野郎共だ、初日と2日目で多少面子は違うがこれが1部屋に集まって野太い声で乾杯するなんて信じられるか。ちょっとばかり想像してみろよ、むさ苦しいにも程がある。なあ、世界の半分は女なんだろ? なんでこんな比率が偏るんだよ。
一応訊くぞ、是非ノーと言ってくれ、言え。
お前が連れてくる連中に、女が居る。居る筈だ、居なきゃおかしい。居なきゃこの世界は狂ってやがる!
頼むよおい、俺は生涯独身を誓ってるが女性は好きなんだよ。1人でも良いから女性を連れて来てくれ。ジョイとロザリーは美人で気立ての良い最高の女達だが孫娘みたいな存在で、言ってみれば身内なんだよ。おまけにロザリーは人妻だし、旦那は俺の元部下だし……まあ、そんな事はどうでもいい。
考えてもみろ、誰だって嫌だろう。誕生日パーティを開催に来る連中が男ばかりなんて、年頃の少年にトラウマ植え付ける気かよ。本人絶対嫌がるぞ、駄目な方のサプライズパーティになる事請け合いだ。鼻の下伸ばして可愛がってるんだろう、おじーちゃんキライとか月並みな台詞を言わたいか?
と言う事で、何処かで可愛い魔女を引っ掛けて来い。大丈夫だ、俺には劣るがお前も十分見た目が良い男だ。駄目なら最悪あの美形兄弟に女体化の薬を盛れ。間違い無く主賓は大喜びで俺とお前に感謝の言葉を捧げる。魔法界ならそんな薬、掃いて捨てる程存在するだろ。
それじゃあ、最後に、ジョイからの相談だ。
誕生日プレゼントにぬいぐるみを贈りたいそうなんだが、馬と牛と鳥のどれが良いと思うか、だと。未回答だとアメコミのガレージキット一式が贈呈されるそうだから、そっちが良いならそうしてくれ。
じゃあな、B面でな。
ああ、そうだ。もう一言だけ。
どうかルカを抱き締めてやってくれ、意味が判らないだろう? 答えが知りたいのなら、親しい誰かに訊いてみな。
「何でもないよ。ありがとう、。ああ、こちらの店はシアトル系ではないのか。コーヒーが濃い……イタリア系だな、以前入った店ではフラペチーノと名前の付いたコーヒーを飲んだのだが、チェーン店にも色々と種類があるね」
「アークタルス様は本当に先端的な方ですね。そのストウアウェイも、最新の物で」
「ああ、知り合いから贈られたんだが、どうかしたのかい。浮かない顔だ」
「このカセットテープも、贈り物ですよね。収録曲のルカはもう聞きましたか」
「ルカ? タイトルを見るだけで判る有名な曲なのか。いや、残念だが、中に入っているのは全くの別物だ。知り合いの、素人が弾いた曲に書き換えられていてね」
「そうですか」
「一緒に添えられた手紙にルカを抱き締めてやってくれ、判らないのなら誰かに訊けとあったのだが、この曲の事を言っているのかな」
「……いえ、アークタルス様。我儘言っても良いですか?」
「君の頼みなら何でも聞くよ」
「貴方を抱き締めさせて下さい。この場で、今すぐに」
「つまり、ルカとは私か」
「優しい人なんでしょうね、その送り主の方は」
「どうかな。悪人ではないが、意地の悪い男だよ。それに口と態度と素行も悪い」
「ふふ、アークタルス様は洗練されていますがとても意地っ張りさんですから、横柄な意地悪さんと合わせれば丁度良い具合になりますね」
「君の頭の中は、相変わらず不思議な解を導き出す構造をしているね。ああ、もう1つ、尋ねてもいいかな。その意地の悪い知人から、マイケル・クライトンという作家の本を1冊勧められたのだが、タイトルを思い出せなくてね」
「クライトン。クライトン……確か、アメリカ人作家、ですよね。アンドロメダ病原体や、ノンフィクション小説の五人のカルテを書いた。来年か、再来年辺りにスピルバーグが監督で映画化される原作も手掛けた方ですが」
「それだ、その映画化される本を一度読んでみて欲しいと言われたんだ」
「ジュラシック・パークなら家にありますよ、お貸ししましょうか。私もメルヴィッドもエイゼルも、全員読んでいますからゆっくり読んで頂いても問題ありませんし」
「それは助かる。お言葉に甘えてもいいかな」
「勿論です。いつものお手紙と同じように、お送りしますね」
「ありがとう。ああ、質問攻めしてすまないが、は家畜だと何が好きかな」
「豚か山羊、いえ、卵を含めると鶏が1番……あの、これ答えたらその生き物がある日突然家に贈られてくるとか、そんな事はないですよね?」
「流石にそんな無責任な事はしないから安心しなさい。きちんと牧場の権利書一式を贈らせて貰うよ」
「無責任に拍車が掛かってます。止めて下さいね、本当に止めて下さいね。私ちゃんとお世話出来る自信ありません。ギモーヴさんだけで手一杯です」
「君にはそうだ、蛙が居たね。すまないね、下らない事ばかり」
「そんな、謝らないで下さい。ちょっと困っているだけで、沢山お喋りをしながら構われるのは大好きなんです。勿論、構うのも大好きですけれど」
「君はいつも楽しそうだね」
「アークタルス様とだからですよ。好きな方とこうしてデートの後にコーヒーを飲みながらお喋り出来るのならば、どんな話題でも楽しい時間になります。という事で、私が楽しい時間を続けましょう。鳥は自由に空を飛べますし、見ていて可愛いですし、食べて美味しいですよね。そうだ、今日は少し暑いので晩御飯は鶏肉を使って、お酢でさっぱりと仕上げたアドボ風スープにしましょう。アークタルス様はビネガースープお好きですか?」
「苦味程ではないが、酸味も余り好まないかな。フルーツの酸味は嫌いではないのだが。しかし君は本当に料理が好きだね」
「料理も好きですが、その後はもっと好きです。愛している人と食卓を囲んで、笑いながら食事をする以上の幸せを、私は知りません」
「確かにそれは、とても、とてつもなく幸福な事だね」
「はい。なので私は今、とても幸せなんですよ。アークタルス様」
「……ああ、そうだね。私も君と、同じ気持ちだよ。」