右回りの魔法陣
柱にもたれたまま、はそう言ってハリーに笑いかけた。
逆にハリーは少し落ち込んだ様子で、無言のままに抱き付く。その姿を見下ろして青年は優しくその体を抱き締めた。
「大丈夫だ」
「でも……」
「弱い人間は、弱い人間なりに生きて行く方法を身に付けている」
ハリーのクシャクシャの髪を撫でている男が、今までずっと抱き締めていた少年と同じ人間だと思うと少しだけ気恥ずかしい。
「……うん」
そう言うと、は一度強くハリーの体を抱き締める。
以前はそうされるととても安心したのに、今は逆に守りたくなってしまう。そんな事を言ったら、この青年は怒るだろうか。
「もういいか?」
「うん。日、暮れてきちゃったね」
足下でぼうっと光る魔法陣を眺め、一人で描いたの? と尋ねてみる。
「原理はタイム・ターナーと同じだからな。許可がないと捕まるが、バレなければいい」
「なんだか凄い事をサラッと言ってる」
困惑するハリーには苦笑して、魔法陣の中に入った。
振り返った漆黒の瞳がこっちに来るように言っていたが、その前にとハリーはその陣の一歩手前で立ち止まり、の手を握る。
「ハリー?」
「どんな過去があっても、ぼくはの事が大好きだからね?」
「……ありがとう」
きっと過去のはなにもかも忘れてしまうけれど、未来のに言えば過去の彼も救われる気がした。
勿論ただの気休めかもしれないけれど、少なくともは笑ったのだから、ハリーはそれだけで満足する。
「帰ろうか」
「うん」
行くぞというの合図と同時に足の方をぐんと引っ張られるような感覚がそのすぐ後に襲い、消えていく中で振り返ったハリーは誰にいうでもなく「さよなら」と小さく呟いた。
そして二つの影は光の中に消え、この物語はひとまず幕を閉じる。