[ 創竜伝 | 余 ]
男同士で、手を繋ぐ事。
ランドセルを背負って好き勝手はしゃぎ回っていた小学生の頃は、何の躊躇いも、羞恥も無かった。周囲からの目も、ああ仲が良いんだね、で終わっていた。
決められた制服に腕を通して、ほんの少しだけ大人びて、けれど周囲からは矢っ張り子供と見られるし、自分でもまだまだ子供だなと思うような中学生になって、少しだけ、それが難しくなる。
ゲーセン、カラオケ、遊園地、ボーリング、映画、ファミレス、ファーストフード、駄菓子屋、公園、河川敷、図書館、博物館関係。
寄り道しよう、遊びに行こう、迷子になりそうだから、はぐれないように、そうやって何でも良いから理由を付けないと触れられなくなって来た。無邪気な顔をして、一緒に帰ろうとだけ言って、手を繋げなくなった。
これが男と女の関係だったら付き合ってますと公言すれば済む話。女と女なら何時までだって手を繋いでいられる。俺と彼が男同士でなければ、触れるのは簡単なのに。
「余、ごめん待ったか?」
今日はどんな口実を作ろうと考えながら暇を潰していた委員会を終えて教室に行くと、オレンジ色に染まった窓際の席で恋人は寝息を立てていた。別に珍しい事じゃない。余は可愛い顔してちょっと寝汚い所がる。全校集会中でも校長の話が長ければ立ったまま寝てる事だってあった。
おまけに一度寝入るとなかなか起きない。大声を上げて揺すっても起きない事だってある。諦めて担いで運んだ方が早い事もあった。
「でも今日は、待たせた俺が悪いか」
誰かも知れない向かいの席に座り、安心し切った小動物みたいに眠る余の頭を撫でて、少しだけ握り込まれた手を取ってみる。自分の目しか無くなれば、こんなに簡単に触れる事が出来る。今はまだ。
このまま大人になって行くにつれて、きっともっと、触れる行為が難しくなって行くのだろう。それどころか、残りの中学生活、高校、大学、その先と、ずっと一緒に要られる保証だってない。
「余、君が好きだよ」
未来も視界も暗くなるような先の事は考えたくない。薄暗い未来予想図を掻き消すように握り締めた手の平は、とても温かかった。