[ Harry Potter:HTC2 | メルヴィッド ]
休日の買い出しからの帰宅途中、運転席に座るメルヴィッドから空のペットボトルを受け取った時に、ふと驚いたような顔をされた。
「どうかしましたか?」
「……いや」
信号に捕まりブレーキを踏んだメルヴィッドは首を軽く傾げ、次いで何故か私の手首を掴んだ。突然の行動の理由が全く判らないが、ひとまず彼の好きにさせておきながら空いている方の手でペットボトルを足元のゴミ箱に捨てていると、やがて納得行った解答に辿り着いたのか解放される。
一体何がしたかったのだろうかと表情で語りかけると、それを正しく読み解いてくれたのか、ちゃんとした答えが返って来た。
「お前に触れるのは平気だなと、そう思っただけだ」
「メルヴィッド、接触嫌悪症でしたっけ」
「病気と言う程ではないが、不必要にべたべた触れ合うのは好きではない」
それは例えば、レジの女性に異様に長い間手を握られて釣り銭を返される事とか、つまりはそう言う事だろうか。実際何度も見た事があるが、メルヴィッドのように周囲の異性が漏れ無く見惚れるような器量をしていると色々大変そうである。
彼が恋する事が生きる事と同義のラテン男よろしく軟派の女好きならば構わず放置して良かったのだが、事ある毎に笑顔の裏でストレスを溜め込んでいるのが透けて見えてしまったので今は無邪気な子供の演技をした胡散臭い私が、お金は僕が払うの、とでも言うように代金の支払いをしているので、そういったものは減少傾向にある。
一定確率でレジの女性にお前かよ空気読めよと物凄い形相で睨まれるが、そういう場合はメルヴィッドが食材に湧いた黴を見るような目で応対してくれるので問題ない。しかし、余りこういった事をやり過ぎるとブラコンのレッテルが背中に大きく張られる可能性が出てくるのだが、その辺り、彼はどうするつもりなのだろうか。
話が逸れた。
確か、メルヴィッドは触れられるでは無く、触れると言ったか。
「自分から触れるのも駄目でしたか?」
「余りな」
信号が青に変化し、車がゆっくりと速度を上げ始める。今更だが、ここは田舎道では無く町中なので今日は安全運転だ。
「何で私は平気なんでしょうね。付き合いが長いからですか?」
「期間以上に密度だろう、単なる慣れだ。昨日の夜からの行動を思い出してみろ」
退屈そうな顔でそう言われて、さて何をしたかと思い出してみる。
夜からならば、まず風呂上がりのメルヴィッドが爪の間に入った薬草が相変わらず取れないから食事前に取れと言って来て、はいはい良いですよいつもの愛の妙薬ですねと爪掃除をした。
食事中はいつも通り、書類の受け渡しやら夜中にやっておく事やらの打ち合わせ。
食事を終えると温かいデザートが食べたいと言い出したメルヴィッドの為に、バナナの春巻きを追加で作った筈である。その際、出来上がる前から口寂しそうにしていたので剥いたバナナを普通に突っ込んだ。因みにどうでも良い事だが、あらかじめ用意してあった冷たいデザートであるオレンジのゼリーも彼は普通に食べていた。
今日の朝食はメルヴィッドが作ったので同じスプーンや小皿で味見をした。演技ではあるが、買い出しの間は普通の親子以上に親密さをアピールしている。
「成程、これだけ頻繁に接触していては嫌いも何もあったものじゃありませんね」
「そう言う事だ。で、今日の昼食は何だ」
下らない事を話したと表情で語っているメルヴィッドに、和風カレーのチーズオムライスにすると告げると、冷蔵庫の在庫処分と呟かれた。休日、昼間、カレーの組み合わせからか、使い切りたい野菜がある事が完全にバレている。しかし同時に喜ばしい。
電子レンジで卵を爆発させ、ポリッジとスパゲッティの缶詰をお湯にぶち込もうとしたあのメルヴィッドが成長したものだと感動していると、私の阿呆な考えが見透かされているのか横目で睨まれた。
取り敢えずこの場を誤魔化す為に、運転中の彼の口の中へ先程購入したばかりのチョコレートバーを捩じ込んでおく事にしよう。