曖昧トルマリン

graytourmaline

[ Devil May Cry | ネロ+双子 ]

 ネロが、今度結婚するんだと言ったから、そーなんだおめでとうと返した。
 相手はキリエちゃんと言う名前の、年上の女の子。姉弟同然で育った、とても仲の良い幼馴染の女の子だそうだ。
 何だかんだ色々ありながらも右腕も人間のそれに戻ったネロは、安心しきった綺麗な笑みを浮かべて、結婚式には来いよと言って故郷へと帰って行った。
 普段は大体引き篭もっている俺だけど、今回ばかりは是非外へ出たい。多分、紫外線対策をして行けば大丈夫だろう、と思う。
 何せ、ネロの結婚式だ。あの、ネロの。
 日取りも無事決まって、相変わらず下らねー喧嘩してる隣の双子と一緒にネロの生まれ故郷まで移動する。
 勿論この2名が移動するからには人命に関わりそうなハプニングも当然のように起こるけど、そこはまあ中年になっても立派に半魔な兄弟が瞬殺してくれた。俺は即、3人分の荷物を抱えて身を隠したけど。だって決して安くはないスーツとか入ってたし。
 道中の事は割愛するとして、色々ありながらも俺達半魔3人組はネロの生まれ故郷に到着し、態々先方が用意してくれた宿泊先に数日間滞在する事になった。
 かなり復興はしているみたいだけど、未だ争いの跡が所々残っている土地を見ていると、何故だか例の青と赤の馬鹿2人が昔に色々やらかしてくれたアレコレを思い出してしまう。まあ、今回のこれも半分位は赤いのが原因らしいけど。
 で、その赤い方、要はダンテは今なにしているかと言うと、俺の世話をそれはもう甲斐甲斐しく焼いていた。何でかって、まあ、大自然に負けたと言うか、何と言うか。
「おい、大丈夫か」
「へーき。珍しく全く痛くねーよ」
 宿泊施設に到着後、紫外線に負けて真っ赤に火傷した全身の皮膚を見て、まずバージルが発狂した。バージルはダンテの鬼いちゃんだけど、俺に対しても結構お兄ちゃん振る。俺達皆揃って、いい年したおっさんだってのに。
 ネロのお嫁さんになるキリエちゃんのお兄さんのクレドさんと言う随分老け顔の人に助言を頼んだバージルは、火傷に効く薬草があるとかないとか言う話を聴きだして何処かへとすっ飛んでった。凄いねバージル、ありがとうバージル、俺愛されてる。中年のおっさん同士の暑苦しい友情だけど。
 所で一応半魔な俺に効く薬草ってなんだろう。そこの所は嫌な予感しかしない。悪魔の脳味噌から生えている可能性とかが普通にある。
「まー、これなら式までに治るだろ。最悪顔だけでも治ればいいし」
「治したいならあんま喋るなよ」
「奇跡が起きている。ダンテが俺に超優しい」
「馬鹿言ってないでもう黙れ」
 全身軽度の火傷を負っている事は心配症な新郎新婦さん達に伏せて置いて貰い、俺の老化した治癒力とダンテの世話、そしてバージルが何処から採ってきたのか決して明かそうとしなかった薬草が効いたのか、式当日にはすっかり全身の火傷は治っていた。
 でもさ、バージル、あの薬草本当何処から採って来たんだよ。お前が全力で目を逸らして口噤むって相当の場所だぞ。
 結局薬草の収穫場所は判らないまま式は進み、何か面倒くさい事を色々してから、遂にキスを出席者全員に見せびらかす段階になって後ろの席から肩を叩かれた。
 恋愛なんてものを知らなかった青臭い坊やがこんなに立派に成長して、と後で誂ってやろうと思ったのに。見せ場中にしつこく肩を叩く馬鹿に一言言ってやろうと振り向くと、そこには何故か、俺が居た。
「それでお前は満足な訳?」
 目の前の俺が言い逃げするように、周囲の景色と一緒にどろりと沈む。
 ああ、なんだ。これは夢か。そう自覚して目を開けると、丁度視界にネロが居た。普段通りの悪魔の右腕に毛布を引っ掛けて、男と言うよりはまだ少年の表情をした生意気で傍若無人で純真で可愛い盛りの、俺の恋人。
「なんだおっさん、起きたんだ。折角毛布持って来てやったのに」
「あー……俺、寝てた?」
「幸せそうなアホ面晒してな、なんか良い夢でも見てたのか?」
「良い夢、かな。でも、どーだろーな」
「何だよそれ」
 少し困ったように笑ったネロは、右手に持っていた毛布を投げつけてシャワーを浴びるとか何とか言ってバスルームに行ってしまった。
 一人きりの部屋の中、ソファの上から起き上がることもせず、果たしてあれが良い夢だったのかどうか考えて、結局答えを出せずにいた。

それは余りに陳腐で在り来りな