[ 創竜伝 | 余 ]
家に遊びに来た1つ下の可愛い可愛い後輩が瞼を腫らして泣いている。
言っておくが、涙の原因は俺じゃない。と言うか、俺が原因だったらこの後輩のお兄様方に骨も残さず抹殺されて今頃ニュースで行方不明者として発表されていても可怪しくない。末弟が可愛いのは判るがブラコン共怖い超怖い。
ま、そんな事は今回どうでも良い。だって俺の所為じゃないし。
「折角、先輩の為に作ったケーキだったのに」
「うんうん」
「お、終兄さんの馬鹿ー!」
「うんうん」
可愛い後輩で、男同士だけど一応お付き合い何かしちゃっている関係の竜堂家末弟の言葉を要約すると、おれの為を思って慣れない手で作ってくれたケーキが食欲魔王の兄の手に依りものの数分で全滅に至ったらしい。ちょっと目を離しただけなのにテーブルの上には食べ滓しか残らなかったとか。
終先輩、取り敢えず土下座しようか。余と俺に向かって。
「茉理ちゃんに教えてもらって、美味しく作れたのに」
「マツリちゃん?」
「従姉妹のお姉さん」
相談したら同情してくれて今、終兄さんを〆て貰ってる、との事。
とても美人で強いお姉さんで長男さんの恋人(仮)らしい。(仮)ってあれか、付き合ってないけど傍から見たら夫婦とかそういうのか。え、違うの? お兄さんに甲斐性ないだけなの?
「ラッピングまでしたのに」
「終先輩、それ破って食った訳?」
「酷いよね!? 何でそんな事したのかって聞いたら、僕が女の子から貰ったお菓子だと思ってって言われたんだよ!? 作ってるの見てなかったからてっきりとか言って!」
「いや……それだとしても、勝手にラッピング破って食うのはどう考えてもアウトだろ」
「終兄さんなんて嫌い!」
再びテーブルに突っ伏して子供のように泣きじゃくる余の背を擦っていると、キッチンで炊飯器が電子音で俺を呼んだ。炊けたのが米ならば放置で良いのだが、そうじゃないので行くしかない。
お茶淹れ直して来ると適当な事を言ってその場を抜け出し、食器棚から大き目の丸皿を取り出し炊飯器の中身をそぉい! する。ふむ、作り慣れているだけあって自作にしては中々の理想的な見た目、良い色艶だ。
お供がマグカップにぶち込んだ100個幾らのティーバッグの紅茶で悪いが、余は多分気にしないだろう。ゴールデンルールとか紅茶の薀蓄垂れ流す余ってのはちょっと嫌だ、顔が可愛いだけに何か余計に嫌だ。
「ほら、余。これでも食べて元気出せ」
「……これ」
「炊飯器で簡単、先輩特製タルト・タタン。温かい内がお薦め」
切り分けは面倒なので行わない、男らしく丸ごとフォークでいただきます。余はこう見えてかなりの大食漢だからこれ位朝飯前だろう。
テーブルを挟んで早速食べ始めると、余も諦めたのか吹っ切れたのか、ストレスを食欲で解消すると宣言して猛然とフォークを振るい始めた。
まずい、食欲が予想以上に増進されている。
「余君、先輩の分も取っておいてね?」
「善処します」
「それ日→日翻訳すると『いいえ』だよね?」
崩れた笑顔で生意気な事を言っちゃってくれた余だけど、ま、元気になったみたいなので良しとしておこう。
そうでも思わないと、俺特製タルト・タタンが既に7割食われているという事実から立ち直れそうにない。余、お前矢っ張り終先輩の弟だよ。胃袋的な意味で。