[ Harry Potter:HTC1 | メルヴィッド | 苛々 ]
価値の低い男だと、少なくとも私はそう思っている。
指示を待つばかりの平凡で愚鈍な思考ばかりをし創造性は皆無、発想には独自性も柔軟性も存在せず自らの意志はあるくせに己の意見は率直に告げない、飄々としているようで我が強い。使える所と言えばまずは不死性、次は未来を経験した記憶に多少の行動力と、その奇妙な体質と価値観が異常で歪な性質、そして不必要なまでの冷淡さだろうか。
お前は扱い辛い、そう告げると中身が爺で異常に若作りな男は何時もと同じ困ったような笑顔で私の言葉を肯定した。
『どうにも私は、他人と合わせるという行為が不得手で』
「お前はそもそも、合わせよう等と思った事がないのだろう」
『それもお見通しですか』
ピーターとか言う平凡な名前を付けられたうさぎの人形の解れを繕いながら、男は私を見つめた。瞳孔が埋没した、黒過ぎる瞳だった。
『ですが、メルヴィッドは私に合わせて欲しい訳ではないのでしょう?』
知った口を、と反論したい所だったがその通りであったので口を噤む。
この男の言う通り、目覚めたばかりの私は己と違う価値観を持った存在を一時的にでも傍に置いておきたかった。私と同じ思考を持って居るのならば、もっと早くに見切りをつけるか、さもなければ死ぬまで殺すかしていただろう。
これは愚鈍で平凡だが、それ故に矜持も人並み以下で他所からの経験を拝借する事に対して抵抗が全くない。寧ろ引用や模倣を好んでいるような節すらある。
そこから出てくる案は、時代を隔てて蘇った私には有難いと思わないでもない。事実この男はアニメーションのシナリオから発想を得てほんの1週間で私の体と財産と戸籍を同時に取得するあてを付けた。全く馬鹿げていると乏したい所だが、このような事は少なくとも死喰い人には不可能だ。
「お前はお前の好きにしていろ、私に被害が及ばない範囲でな」
『もう十二分に好き勝手させて頂いていますよ。ねえ、ピーター君』
爺の癖に子供のような笑顔で人形に語りかけている姿から視線を外し、冬の冷たい雨の降るロンドンを見下ろす。
『メルヴィッドこそ、もっと我儘を言っていいんですよ?』
「指示は下してやるが、我儘など誰がお前に言うものか」
この男の価値を高くして堪るか、私は何時かこの男を捨てるのだ。
私の中の不必要な感情のように、敵対する者の命のように、役立たずな部下達にしてきたように、恰も塵芥屑のように私はこの男を捨てるのだ。
そうでなければならない、ならないはずなのだ。