曖昧トルマリン

graytourmaline

[ Harry Potter:恋愛 | ヴォルデモート | 切な甘い? ]

 抱え上げた小さな体が以前よりも重く感じて大きくなったなと呟くと、黒目がちの瞳が美しい輝きを放ちながら私に向けられた。
「おおきくなった?」
「ああ、このままだとすぐに追い越されてしまうかもしれないな」
 体重を片腕で抱き止められ、年齢すらまだ片手で足りるこの幼子も何時かは私を見下ろす日が来るのだろうか、きっと来るのだろう。
 幾ら分霊箱を作り不死に近付いた所でこの肉体の老化は止まらない。例え別の魔法を使って防いだとしても時間が進行する限り私の精神は老いる。あと20年もしてこの子が青年と呼べるまでに成長した時、私は既に初老の男であろう。
 その時までこの子が隣に居てくれる保証、いや、それ所か私達が共に生きているかどうかも危うい。浮世から隔離されたこの屋敷で生きているこの子は兎も角、周囲に敵の多い私は特に。
 無論、死ぬ気もなければ殺される気もないが、目に見える形或いは体に感じる形で成長して行くこの子供の側に居ると、時折自らの未来に差す影が頭にチラつく事がある。
 いっそこのまま、時間が止まってしまえばいいとすら。
「ねえねえ、リドーさん」
「なんだい?」
 厭な考えを振り払って笑い掛けると、少しだけ首を傾げながら夜色の瞳が私を見上げる。柔らかい頬が首筋に触れた。
「もっとおおきくなってね、リドーさんよりおおきくなったらね」
 短い両腕を上げてこれくらい、と主張する幼子の姿が愛らしく思い頬を緩めると、私が笑った事に満足したのか幼子も笑う。
「そしたら、こんどはリドーさんをだっこしてあげる!」
 約束だと、そう笑顔で告げる温かい体を優しく抱き締めた。
 誰よりも近くに触れ合った未熟な体からは花のような甘い香りがする。
「ああ、それは楽しみだ。とても……とても楽しみだ」
 早く大きくおなりと、心にもない言葉が舌先から溢れた。

大人は得てして嘘吐きなものです