曖昧トルマリン

graytourmaline

[ Devil May Cry | ネロ | 甘 ]

 紙の上を滑る鉛筆の芯の音に別の音が混ざった。木と陶器が軽くぶつかり合う音だ。
 手を止めて音のした方に視線を逸らしてみると、仕事台の上にバターが乗っかりハーブソルトのかかった湯気を立てたジャガイモ。なんだこれ。
「食え」
 そのジャガイモが乗った皿を置いた風呂上りの若い恋人、ネロが一言。
「いや、こんな深夜じゃおじさん腹減ってない……」
「いいから食え。あんた昨日の夜から今日の朝も昼も夜も抜いただろ、一日以上水だけとか新手の減量か自殺志願か?」
「あっれ。ネロってエスパー?」
 昨日の昼は消費期限切れで未開封のシリアルにミルク掛けて食ってたらネロに凄い勢いで怒られた。その後怒りながらネロは仕事に行って、綺麗なバスルームを使いたいからって俺の所にさっき帰って来た。
「冷蔵庫の中身見りゃ判るだろ。水飲もうとしたら食材全然減ってなかったから作ってやったんだよ、有り難く食え」
「んー。でも俺ダンテみたく丈夫な胃袋じゃ」
「食わないとあんたの頭にレッドクイーンで穴開けて切り潰す」
「おじさん頑張って食べるから体罰は止めて!」
 急いで鉛筆からフォークに持ち替えて柔らかいジャガイモを刺す。反応が遅ければ俺がこうなっていた訳だ、割と笑えない。
 24時間以上振りに胃袋に食べ物を送る。
 ジャガイモはちゃんと火が通りホクホクとしていて美味い、あとちゃんと切り込み入ってたり芽を抉り取っている辺りにネロの優しさを感じた、不精な俺は気にせず食べるから矢っ張りネロに毒があるから食べるなと怒られたことがある。この子はしっかり者のいい嫁になるだろう、今はおじさんのケツに興味があるらしいけど。
「美味い」
「レンジで温めてバターと塩かけただけだ。誰が作っても一緒だろ」
「そりゃ違うだろ。芽はちゃんと取ってくれてるし、バターが染み込みやすいように切り込みも入ってる」
「……あんた、食事に関して不精だからそういうの気にしないと思ってた」
「いや否定しようもないくらい不精だけどさ。でも、ネロに言われた事は覚えてる」
 ありがとなー、と笑いかけるとネロは照れて右腕で俺の頭を鷲掴んだ。
 相変わらずこの子の照れ隠しはものすげー暴力的で痛い。でもおじさんだから学習能力低くて嬉しい事されると若者褒めちゃうんだ。
 ぎりぎりと軋む頭蓋骨が砕けないか心配だったけど、こんな駄目なおっさんに褒められて照れるネロが妖精みたいに可愛いから、しばらく笑っている事にした。

深夜25時半の戯れ