[ Devil May Cry | ネロ | 日常 ]
ダンテの知り合いの女は露出が激しい。別にそれが何かという訳じゃないけど、露出した肌に俺の恋人の印が刻んであるのを見るとどうしようもなく苛々する。
冬だというのに背中の開いた服を着た香水臭い女は、肩甲骨の辺りに新しく彫った天使の翼のタトゥーを見せびらかしながら真っ赤な口をダンテに向かって動かしていた。
事務所に何しに来たのかも判らない女なんてすぐに追い出すのに、バージルがいないのをいい事にダンテはやに下がった顔で訳の判らない事をベラベラ喋っている。煩い、早く帰って欲しい。
「うん、何だ。また隣で新しく彫ったのか」
「ダンテ気付くのおそーい」
「ベイビーちゃんの可愛い顔に夢中だったんだよ」
今頃背中のタトゥーに気付いたダンテに女が笑う。ここに来てから一度だって背中を向けてないのに気付くはずないだろと心の中で突っ込みをする。
「あいつのタトゥーって地味に人気だよなあ。何がベイビーちゃん達の心を掴むんだ?」
「デザインはまあまあって所だけど腕は確かだし、店と店主がいいのよ」
「あのすっとぼけた鈍感男が?」
「タトゥーアーティストって勘違いした気持ち悪い男が多いの、店のセンスも気持ち悪いし、暗いし、不潔だし。あの子はそういうの全然だもの」
「あの子ってなあ。あいつ、俺と同い年のはずだぜ」
「女の色気に反応しないベビーフェイスちゃんにはあの子で十分よ」
衣擦れの音がする。女がダンテに抱きついたか何かしているのだろう。俺が居るのを知ってるのにそんな事するなよ。
雑誌をマガジンラックに投げた音に驚いた女を一瞥して事務所を出る。この建物から出たら俺の行く場所なんて一つしかない。
「おー。ネロか、どした?」
隣の建物の扉を勢い良く開けて客用のソファに上着を投げる。まともに挨拶もしないガラの悪い俺を快く受け入れてくれる恋人の懐の深さは計り知れない。
「客は?」
「午前中は居たよ、午後の予定は無し。で、今は楽しい書類整理中、一緒にするか?」
「メンドイ」
誰がそんな事するかって言うと恋人は愉快そうに笑った。何でこんな事言われても笑っていられるんだろう。
「手伝わないけど紅茶くらいは淹れてやるから、ちょっと休憩しろよ」
「可愛い恋人が優し過ぎておじさん感極まって泣いちゃいそう」
「いつも思うけどこの程度で泣くなよ情けない」
恋人の頭を軽く叩いてキッチンで紅茶を作って戻ってくる。
机に散乱していた書類はちゃんと整理されていて、ソファに放置していた上着もコートハンガーに掛かっていた。こういう細かい所がさっきみたいな女にウケるんだろうなと考えると無性に腹が立った。
この恋人の、細い骨張った手や指が女の素肌を触る。色素のない赤い目が体の隅から隅まで見る。甘い唇が優しい言葉を紡ぐ。仕事じゃなかったらその腕ごと切り落として目を抉り出して口を縫いつけたいくらいだ。
客用ソファの前にあるテーブルに紅茶を置くと、乱暴過ぎたみたいで中の液体が跳ねる。それでも恋人はニコニコしたままだ。
紅茶を一口飲んでソーサーに戻す。曇ったサングラスの向こうの血色の目、それと同じ色の首輪が照明の光を受けて光っていた。
「ネロ?」
身を乗り出して首輪を引っ張って引き寄せると、流石に笑顔は消えて驚いた表情になり疑問の声が上がる。それでも抵抗はされない、俺は酷い事をしないと信用されている。
「仕事だから、全部許してるんだからな」
それを裏切るみたいに、俺はいつも嫉妬に塗れた台詞を言って獲物を食らう獣みたいに首輪の上から咽喉に噛み付いた。血の滲む匂いを漂わせながらも恋人からは驚愕の表情が消え、代わりにまた穏やかな笑顔が戻っていた。