[ D.Gray-man | マルコム=C=ルベリエ | 流血気味 ]
やあやあ、そこにおわすコルム坊や、今日も元気に仏頂面だ。
冬だと言うのに此処は暑いね。いや、火に囲まれているのだから当然だろうけどね。
気を紛らわしたいから何か面白い話をしてもいいかな。うん、誰にも聞こえていないのは承知だよ。何せ部屋全体から炎が噴き出しているからね。
まあいいや。兎に角始めよう。
むかしむかし、インドにうさぎときつねとさるが居たそうだよ。で、彼等はそれはもう仲良く暮らしていたんだが、どうにも頭がアレでね。
その三匹はどういう訳か、自分たちがこんな姿なのは前世に悪い行いをしたからだと思い込んでいるんだ。じゃあ善行をして徳を積んだら何になるんだって話だよね、やっぱり輪廻からの解脱かな。
うん、話が逸れたね。それに煙いな、これ建物大丈夫かな? 大丈夫じゃなくても、ぼくが大丈夫ならなんでもいいんだろうけどさ。
ああ、それでね、その三匹なんだけれど、何と暇で暇で仕方のない帝釈天が見ていたというのだ。在り得ない確率だよ、顕微鏡で単細胞生物の生態を学んでいる最中に、その中の三つが突然喋り出すようなものだよ。まあ、お話なんだからいいのだけれど。
で、三匹の心根に感心した帝釈天が地上に降りてくる訳だ、人間の老人の姿をしてね。全く神様は暇だね、慢性的人手不足なエクソシストの仕事を手伝って欲しいよ。
帝釈天が化けた老人を見た三匹はそれはもう大張り切りさ。馬鹿だろこいつ等とか言ってやるな、ぼくもそう思ったんだから。
さるは木に登って木の実や果物を採って来る、きつねは川で魚を獲った。
問題はうさぎだ。どうしたと思う、全く呆れた奴だよ。
老人に火を焚いてもらって、その中に飛び込んだんだ。自分の肉を喰ってくれってね。
帝釈天は慌てて老人から姿を変えて、三匹の事を心から賞賛した。来世は人間にしてやるって約束もした。あれ、輪廻解脱は? とか当時思ったけど、今ではどうでもいいや。
特に帝釈天はうさぎの行動は気に入られてね、黒焦げたうさぎの姿は永遠に月の中に映してやるってその影を空に上げたんだと。ぼくはそれより肉食ってやれよと突っ込んだけどね、食えと言って死んだのだから食ってやれよと。
所で科学班諸君、これって焼死以前に一酸化炭素中毒死するんじゃないかい? まさか実験を一からやり直すとかないだろうね、ぼくがこういうの大っ嫌いって知ってるよね?
いや、いいさ。君等にも聞こえない事位判っているよ。
ああ、判っているさ。それにしても今夜の新月はとても綺麗だ、うさぎの影がよく見える。