曖昧トルマリン

graytourmaline

[ Devil May Cry | ネロ | 健全(下品?) ]

 年が明けて三時間もしない内に隣家に店の窓を破壊された。今回は鉛玉の後にソファがご来店しやがった。今年もあの双子は元気に過ごせそうだけど、店の前にかかっているCLOSEの文字は相変わらず読めねーらしい。知っていたから今更だけど。
 ダイナミック入店なんて芸当は他人の店だから笑えるのであって、実際こっちが頻繁に被害を受けると最早溜息しか出て来ないから。やるならやるで昼間とかにして欲しいんだけど。真冬の夜中に窓が全開、というか全壊とかちょっと困る。
「ふざけんじゃねえぞ×××××!」
 ああ、聞き覚えのある声だ。というか、恋人のネロの声だ、聞き覚えがあるのは当然かもしれねーけど事務所が寒くて耳が千切れる。
 若いっていーよな、この寒さをものともせずに冬の夜空に向かってFワードを大絶叫出来るんだから。おじさんはとてもじゃないけど、真似できないよ。
 俺の恋人も今年は元気で過ごせそう。いー事だ。
「もういい! 俺はしばらく隣で暮らす!」
「お?」
 何だかよく判らん内にネロがご来店してきた。破壊された窓の向こうでは腹抱えて笑ってるダンテと、今にもそれを切り刻もうとしているバージル。
 こっちに来たのは、かわいーウサギ耳を生やしているネロ。
 なんだこれ。悪魔の呪い的な何かか?
 元気だとか言っちゃってごめん。新年早々こんな事になっているなんて思わなかった。
「しばらく厄介になるから」
「おー。判った」
 しかし銀髪に白い耳に真っ赤な瞳って如何にもジャパニーズホワイトのウサギっぽいな、美形だから様になってるし。殺されそうだから本人には言わねーけど。
「ベッド一つしかねーけど、ま。いーよな。部屋の場所判るだろ、先行っとけ」
「そこまでしなくていい。ソファで寝る」
 何時もの如く壁をダクトテープとビニールシートで補修していると恋人からこんな事を言われたんですが。俺基本無精者で甲斐性もねーけどそこまで鬼じゃねーよ。
 半魔じゃんとか突っ込むなよ? 俺にだって人間の血くらい流れてるっつーの。
「あのな、ネロ。幾ら俺でも恋人をソファで寝かすとかできねーから」
 大体、ソファとか事務所にしかないし。しかも事務所には真冬の冷気が思いっ切り入り込んできてるし。屋内野宿とか考えただけで寒過ぎる、勘弁して欲しい。
「……でも」
「でも?」
「急に来てさ。迷惑、だろ?」
「そんな訳ねーだろ」
 何この子、相変わらず可愛過ぎるんですけれど。
 顔赤くしながら上目遣いがよく似合う。へたれたウサギ耳がいー味を出している。ヘタなそういう店の子よりも目を惹くとか根っからの美人って本当スゲーな。
 本当、なんでこんな子がおっさんのケツ掘りたがってるのか理解出来ない。いや、俺処女じゃねーから、あんまりケツの穴の事は心配してないんだけどさ。
「ネロがこんなガリガリのおっさんと寝たくないってなら、俺が徹夜すればいーだけだし」
「それは駄目だ。それに、別に、一緒に寝るのが嫌なわけじゃないし」
「なら決まりだな。ほら、行くぞ」
 思いっ切りこの可愛い生き物抱き締めたいんだけど、やったら多分頭に鉛玉ブチ込まれるよな。というか、多分俺がそういった行動起こさずに普通に接する事が出来ると思って頼ってくれたんだろーし。
「よし、到着って。予想してたけどさみーな」
 自室に着くとベッドは既に冷え切っていた。まーこれも大体予想は出来たけど、それにしても冷たい。ベッドに入ると全身が凍える。布ってここまで冷たくなるもんなんだな。
「本当冷てえ。それに抱き心地も悪い」
「ネロ筋肉あるから暖かいよな」
「うわ! 指と足の冷たさが尋常じゃねえよ。おい、暖め辛いから体勢変えろ!」
「もーちょい、くっつくか?」
「そうしてくれ。ああ、これなら大丈夫だろ」
 狭いシングルベッドに男二人で寝転がってなんつー会話してるとか突っ込まれそうだけど、ごめんなさい、至って健全。
 だってほぼ枯れてる俺と純情っ子ネロだし。やらしー雰囲気なんて微塵もねーよ。俺はいーけど、ネロ、お前そんなんで大丈夫か?
 おじさん、君の将来がちょっと心配。ウサ耳的な近い将来から性欲的な中距離の将来までが特に心配だ。
「あんたが、そういう奴だって知ってたから来たんだけど。本当に、何も訊かないんだな」
「耳の事か? どーせ赤いのが原因だろ」
「そうだよ。あの×××××の所為だよ、あのおっさん、よりにもよって俺を盾にして悪魔の攻撃防ぎやがった」
「あー。だからバージル怒ってたのか」
「今回ばかりは事務所半壊でも許す。地獄に堕ちろ×××××」
 お隣さんから聞こえる轟音はまだ鳴り止む様子がねーし、半壊じゃ済まねー気もするけど。しかし、事務所が全壊してダンテが地獄に堕ちる事もねーとか軽い悪夢だな。
 ちょっと精神的負担減らしとくか。
「なー、ネロ。俺にはさ、悪魔の攻撃食らってもネロが怪我しなかったのは割と救いなんだけどな」
「俺のプライドが大怪我してるんだけど?」
 ちょっ、痛い! 悪魔も元気に屠る若者が貧弱なおっさんに寝技かけないで!?
「い、いや! だからさ、怪我してねーのにしばらくはネロと一緒に居られるって事だろ!」
「……そっか。そういう考え方もあるんだな」
 あのさ、ネロ。解放されたのに俺の関節が引き続きキシギシいってるんだけど。相変わらず暴力的な照れ隠しだな、そこが可愛いっちゃあ可愛いんだけど。
 でも、今度からはもう少しだけ手加減してくれると、おじさんは凄く嬉しい。
「今まであんたとは隣家だったから、そういう事考えなかったけど。うん、それなら少しは前向きになれる」
 今までが前向きではなかったと? とか訊きたいけど、答えがわかってる事を一々問いかけるのは時間の無駄か。
「耳治るまでのんびりしてろよ、おじさんが力の限り甘やかしてやるから」
「あんたに甘やかされると抜け出せなくなりそうだ」
「心配すんなって。まるで駄目なおっさんだって自覚してるし、毎日ネロをハラハラさせてやるからドップリ浸かるって事はねーよ」
「その駄目な所も含めて全部好きなんだよ」
 あー。何この子もう本当可愛いな。
 長耳巻き込んで髪をわしゃわしゃ撫でてやった。スゲー不満そうな顔されたので追加攻撃を試みる。
「ネロ」
「何だよ」
「Happy New Year. 愛してる、って言っていーか?」
「もう言ってるじゃねえか馬鹿!」
 右手で頭叩かれた。相変わらず凄まじい照れ隠しだな。
 それくらいは予想してたから笑ってやったけど。あ、普通に笑っただけでダンテみたくニヤニヤしたわけじゃねーぞ。そんな事したら頭カチ割られるからな。
 さて、ネロはどう出てくるかな。不貞寝かな、返事をくれるとおじさんは嬉しいんだけど。
「……な、なあ」
「うん」
 お、返事してくれた。ベッドの埋もれながらの小声でハッピーニューイヤーとか本当可愛い、何この妖精さん。
「俺もさ、愛してる」
 心臓バクバクさせながら告白してくれたネロは、それだけ言って固く目を閉じてしまった。多分無自覚なんだろうけど、うさ耳がピルピルしてるのがまた可愛らしい。
 さて、俺もそろそろ寝るか。
 それにしても、今年はいい一年になりそうだ。

姫始め? そんなもん異国の文化ですよ。