曖昧トルマリン

graytourmaline

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 バスケットの中で丸くなっていた生き物が、ぴくんと動いた。
 青い毛色のホーランドロップ。片手が余るくらい小さな幼獣が冬の合間に訪れた光の中でまどろんでいる。
 そんな毛玉は、本来はうさぎではなく人間だ。動物もどき、所謂アニメーガスだ。
 もっと詳しく言うと、今現在僕やセブルスが惚れ込んでいる人間の、しかも男だ。外見はどちらかと言うと少女っぽいのだけれど、彼は女顔を気にしているから面と向かってそう言った事はない。嫌がるのを承知で可愛いとはよく言っているけれど。
 そんな可愛らしい彼は、寮のベッドでは同室に犯罪者が居る所為でまともに眠れないから、この隠し部屋で睡眠を補充しているのだろう。何気にバスケットの中にはふかふかのタオルと、その下には小さな湯たんぽまで用意されていた。大きな湯たんぽはこの前水漏れを起こしたので、この湯たんぽでも暖が取れるように態々うさぎになったらしい。
 彼のこういった努力は偶に方向性を失う事があるけれど、それはそれでとても可愛らしいので今の所文句はない。多分、これからもないだろう。
「君はうさぎになっても可愛いからね」
 凹凸の少ない顔の中央、Y字の鼻がひくひくと動いている。声に反応してうっすらと開いた瞳は冬の夜空より澄んだ黒、その中に、一瞬だけ僕の姿が映った。
 短い前足が顔を洗う仕種をして、小さな口が欠伸をする。起きるのかなと思って観察していると、耳の生えた毛玉はころんと横になって、だらしのない格好で二度寝し始めた。
 僕は一応遺伝子に狼が混ざっているのだけれど、天敵とは見なされなかったらしい。気を許してくれている事が喜ばしい反面、彼を恋い慕う男としては少し悲しい。かといって、無体をして彼を裏切るわけにも行かない。
「君が好きだよ」
 仕方がないので、眠っている彼に何十、何百回目ともなる告白をしておく。
「僕はね、君が好きなんだよ」
 猫よりも狭い額に口付けをすると、焼き菓子のような甘い香りがした。バター色の日差しの中で眠る彼が、酷く美味そうに思えた。

餓死する狼