曖昧トルマリン

graytourmaline

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 ドラゴンも青褪めて除けるような殺気を帯びたあいつが地下室に来た。
 どう見ても厄介事を抱え込んだ顔だったが、断るわけにも行かない。好きだからとかそういった俗な理由ではなく、ぼくも厄介事を抱えた場合は真っ先に世話になっている恩と、断った場合、ホグワーツが閉校になるくらいの惨劇が訪れる可能性が極限まで高まるからだ。
 そんな最後の砦みたいな役回りになんてなりたくなかったが、以前は使えたルーピンが駄目になった以上、最早これを止める事が出来るのはぼくしかいないのだから仕方がない。
 人間幾つかの諦めも肝心だし、別に嫌々やっている訳でもない。そう諦念しているぼくが何か言う前に、あいつは文字の書いてある紙を見せてきた。理由があって口が利けないらしい。一体何があったんだ。
『現在進行で盗聴されている』
「……」
 絶句した。一瞬気が緩んだが、それでも叫ぼうとしなかったぼくの咽喉を褒めたい。そしてこいつにそんな事をした相手は命知らずの馬鹿者だと心の中で罵った。
 何を考えて、よりにもよってこいつに盗聴器を仕掛けるんだ。バレないと思うほうがおかしい。声を上げて殺してくれと言っているようなものだ。
『何時、何処に、誰がだ』
『何時かは判らん。場所はネクタイ』
 犯人はブラックとポッターの大馬鹿、という字が殺気に塗れている。そのまま呪われろと心の底から思った。
『盗聴魔法の類だが、ネクタイを外すと露見した事が相手に通知される仕組みのようだ』
『物証を押さえて変態二匹をアズカバンに送れ。二度と帰らせるな』
『外したら自動的に魔法の効果も切れる。そうなっては殺せない』
 アズカバンでは温いと、爛々と光る黒い目が言っている。毎回こうして怒らせては吊るされているのに懲りない馬鹿共だ。
『ぼくは何をすればいい』
 手早く筆談すれば、僅かに殺気が緩んだ。話が早いと言いたかったのだろう。
『誘き寄せるのを手伝ってくれ』
『どうやって?』
『性交渉の演技』
 思い切り噴き出したぼくは悪くない。断じて悪くない。
「お前は何を考えているんだ!?」
「別に構いはしないだろう。誰も見ていないのだから」
 ぼくが声を発してしまった所為で了承も取られずに流されてしまった。演技というだけあって、声が妙に艶っぽい。少しはこっちの心情も察して欲しいが、無理に違いないと諦める。
「なあ、いいだろう。スネイプ」
 誰と逢っているかを声に出し、態と馬鹿を誘導するのは構わないが、もう少し、その、演技を抑えて欲しくもある。しかし抑えたら抑えたで、ポッター辺りは勘付きそうだから嫌だ。
 隣を見ると殺気立った状態で唇を舐める姿があった。妙に色っぽいが全体的に怖いのが唯一の救いだ。ここで色々と反応したらぼくまで未来永劫蔑まれるに違いない。
「駄目、か?」
「いや、お前がそこまで言うのなら。ただし、お前からして貰うぞ」
「そのつもりだ」
 ぼく等はそっと杖を握り、いつ地下室の扉が相手も攻撃出来るように無言魔法を構えておき演技を続ける。ちら、と見るとあいつの杖先が真っ赤に光り夕日のようになっていた。
 あれが直撃したら半死半生くらいにはなるだろう、思わず口端が上がる。
「服を脱げ、全部だ」
「……地下室では、寒い」
「文句を言うなら、止めてもいいんだぞ」
「わ、かった」
 無表情で繰り出される会話が非常に心に悪いから、呪いを強力なものに替えておく。今日こそ報いを受けろ、グリフィンドールの馬鹿二匹。
「そこに跪け、そして」
 言いかけた言葉は、地下室が開く音に遮られた。
 見えたのは殺気立ったブラックと、一瞬で状況を把握して嵌められた事に気付き真っ青になったポッター。ふん、いい気味だ。
「「死ね」」
 あいつ等が一言でも発する前に、ぼくたちの魔法という名の呪いが発動する。日頃の怨念を込め過ぎた所為で扉付近が木っ端微塵になっているがそんなものは後で直せばいい。
 泡を吹いて倒れている馬鹿を見下ろしてすっきりしていると、相変わらず物騒な殺気を纏ったままのあいつがぼくの方を向く。
「さて、スネイプ。死ねない事を後悔するまで馬鹿二匹に追い討ちをかけるぞ」
「そう来なくては」
 ぼく等はニヤリと笑い合い、偶然通りかかったマクゴナガルが止めに入るまで気絶したポッターとブラックへ日頃の鬱憤を晴らし続けた。
 追記すると、今回の騒ぎによる罰則を受けたのもあの馬鹿二人だ。ついでに後でこの事を知ったルーピンからも拷問紛いの行為を受けていた。
 盗聴などという犯罪行為の罰だ、馬鹿共め。

ダメ。ゼッタイ。