曖昧トルマリン

graytourmaline

■ ありがちな話
■ 壊れちゃった帝王様
■ 夢主もある意味壊れている
■ 鬱屈しているのか純愛なのか微妙

賽の河原で石を積む

 最近、とまともに会っていない所為なのか、頻繁にあの子の夢を見るようになった。それも、吉夢ではなく悪夢を。
 私以外の男に待ち侘びた様子で駆け寄って行ったり、私以外の男と酷く楽しげな様子で手を繋ぎ合っていたり、私以外の男の名を優しい声で呼び続けたり、私以外の男を恋焦がれたような瞳で眺め続けていたり、主に、そういったような内容だ。欲求不満なのだろう、我ながら、非常に判り易い夢を見るとは思っている。
 しかし、それにしても今日の夢は殊更酷かった。何故あの幼子の胎の中に他の男が植え付けた命が宿っているのか。私の頭は、一体何処まで私を追い詰めれば気が済むのか。
に会いたい」
 囁いて、あの子が残していった物の形を確かめるようにゆっくりと触れる。
 は今、ここに居ない。あの子に与えられた屋敷の中から、別の小さな部屋に詰め込まれてしまった。
 血の近しい一族の者の手で連れて行かれたからだろうか、あの時は全く抵抗をせず、あまりにも呆気なく別の部屋に詰められた。あの子を引き止める為に必死の抵抗をしたのは、私だけだった。
 どうしてだと嘆き、あの子を助ける為に身を費やしたにも関わらず、それを止めたのはあの子の実父や実母、そして私が尊敬していたの祖母である。彼等は皆、あの子をいかせてやれと首を横に振った。
 結局私は杖を取り上げらて軟禁され、その間にあの子は連れて行かれてしまった。その後も再三、特にに会わせてくれる可能性が最も高いあの子の実母に頼み込んだが、それが裏目に出たのか気味悪がられ、遂には彼女は私の前に姿を現さなくなってしまった。
 一体、何故なのか。どうしてあの子だけがこんな酷い目に遭わなければならないのか。今、あの子は、は、たった一人で暗い部屋の中に閉じ込められているに違いないのに。あの子もまた、私と同じように悪夢を見ているに違いないだろうに。
 あの悪夢と同じように、胎の中に見知らぬ命が。
「そんなはずはない」
 はまだ幼子だ、子供を成せる程に体が成熟し切っては居ない。そもそも、あの子は男子だ。子供は産めない。その、はずだ。
 しかし、もし相手が外道で、薬を幾つも併用してあの柔らかい体を作り変えていたら。その体を蹂躙していたら、考えただけで怖ろしい。あの子は今、独りなのだ。
 目眩と吐き気がした。に会わなければならない。
 急いで身支度をすると、私はが独り居る場所まで走り出した。場所までは判る。会うことも、会うだけならば、実は出来る。ただいつも、ちゃんと会う事が出来ないのだ。
、会いに来たよ」
 扉に付着した重い埃を払い、開ける。久方振りに外気に触れたのか、部屋の内部の淀んだ空気が一斉に私に向かい放出された。
 小さな小さな丸い部屋の隅に、は居た。泣きも笑いもしない、感情を捨てた虚ろな表情のまま何処も見ずに横たわっている。
「また、痩せたな」
 動こうとしない小さな体を抱き上げ、壊れないようにそっと腕の中に収めた。この前会った時よりも、更に痩せて軽く、小さくなっている。
 柔らかく手に吸い付くようだった皮膚は既に張りが無く、絹のように美しかった黒髪も色褪せて乾いていた。白い着物から覗く胸板には肋骨が浮き、ふっくらとしていた頬も痩せこけて骨を見せている。
 私に駆け寄り、手を繋ぎ、名前を呼びながら見つめ合った、あの可愛らしい子供の面影はない。もう何もしたくないと、全身で生きる事を拒絶している。
 何が、この子をそうさせてしまったのか。
、何故なんだ?」
 一体これが何度目の問いかけになるのだろうか、腕の中のは静かに俯いているだけで何も語ろうとはしない。下腹部に手の平で触れ額に優しく口付けると、ありえない程低い体温が指先と唇を伝わる。
 平たく骨張った下腹部からは命の音は聞こえない。夢は、所詮夢であった。
 しかし、今までそうだったからと言って、これからもそうだとは限らない。無抵抗のままで居続けるこの子を汚そうと、何時魔の手が伸びるとも判らない。
 この子を、を、守らなければならない。それが出来るのは、行動に移すことが出来るのは、今では私だけになってしまった。
、愛してる」
 紙のように乾いた唇に口付けて、私が守る事で更に小さくなってしまったの体を元居た部屋に寝かせる。
 本当ならば屋敷へ連れて帰り、傍に居てやるべきだと思う。けれど、そうする度には連れ去られ、この小さな部屋に詰め込まれた。ここがこの子にとって一番良い場所なのだと彼の両親は言うが、今のを見るにとてもそうだとは言えない。
 しかし、だからと言って私の傍で幸せな表情をするかと言えば、そうでもないのだ。何処に居ても、また誰と居ても、この子は何も語らず横たわり、その態勢のまま一日を過ごす。
 食事も取らず、水すら口にしない、そんな日が何日も続く事すらあった。まるで、
「まるで、何だと言うんだ?」
 自分自身が何を考えているか判らなくなり、腕の中のにそれでも心配する必要はないと左手を着物の懐に入れ、細過ぎる腰を抱きながら何度も口付けた。
「愛しているよ、。私だけが、お前を何時までも愛してる」
 だから、私を見てくれ。私だけを見てくれ、私の可愛い