■ 夢主はホグワーツ入学前
■ ヤンデレ
■ 猟奇的ではない
■ 闇の帝王が監禁されます
■ ヤンデレ
■ 猟奇的ではない
■ 闇の帝王が監禁されます
箱の中
見覚えのない天井だった。の屋敷にある物とよく似ているが、記憶と照合してもどれとも合わない。咽喉を押さえながら起き上がると、四方の行灯に照らされた薄暗い和室、そして自身が寝かされていた布団を視覚が捉える。
障子の外に明かりは見当たらない、夜なのだろうか。圧迫されるような感覚が常に押し寄せ、眩暈に似た症状を覚える。
「リドル」
「……」
背後から名前を呼ばれて振り返ると、見慣れた少年が枕元に座っていた。いつもと変わり無くふわりと微笑んで、両手で小さな箱を大切そうに持っている。
時折、その箱から爆ぜるような、ぱちん、ぱちん、という音がした。
の差し出した湯呑みを受け取って冷たい水を体の中に流し込む。どっと汗が噴き出して、思っていたよりもずっと渇いていた事を今更知り、手拭いで軽く汗を拭き取った。
「目が覚めた?」
「ああ。所で、此処は何処だ」
見覚えのない、息苦しい部屋。渇きは治まったが眩暈は未だ離れない、舌や指先まで痺れる感覚がして来た。
空気が重い。
その感覚が判らないのだろうか、普段は過敏なは相変わらずふわりふわりと笑って正六面体の角を優しく撫でて口を開く。しかし、それはリドルの問に対する答えとしては酷く不出来だった。
「蚤は、あんな小さな体で1m近くも飛ぶ事が出来るんだって」
「いや、私は虫では無く部屋の話をしているんだが」
「うん」
笑顔のままこっくりと頷いたを見て、リドルは自分が悪い夢でも見ているのではと思い始める。無論そうではない事くらいは判っているが、この空間がどこか現実味に欠けるのだ。
そも、という少年は偶に突飛な発言をする事はあるが、思考回路が少々特殊なだけで頭の回転は速い。ここまで話が通じないという事は、今まで無かった。
偽物という可能性もあるかもしれないが、誰が何の為にしているのか見当も付かない。
体感時間なので当てにはならないが、体の状態や空腹具合から見てもリドルが寝入ってから精々数時間した経っていないはずだ。その短時間では、の屋敷に侵入する事すら不可能である。
では屋敷の内部、性質の悪い魔法生物の犯行か。赤い目が淡い光に照らされて光るが、は怯む様子も無く話を続けた。
「でもね、そんな蚤を簡単に跳べなくする方法があるの。知ってる?」
ぱち、と小さな箱が音を立てたかと思うと、それっきり辺りはしんと静まり返った。
褒めるように、箱を撫でていたの瞳がリドルを捉える。その黒い目に映った自分の表情が、驚愕に支配される瞬間をリドルは見た。
「リドルはこんな小さな箱に入らないから、用意するのがちょっとだけ大変だったんだ」
魔法を使えなくするのが一番大変だったと語るがリドルを見つめる。
血の気が引いて冷たくなった頬を幼い手付きで撫でられ、振り払おうと腕を上げようとして体が思うように動かない事に気付いた。眩暈が一層酷くなり、舌の根までが痺れ始める。
赤い瞳が先程口を付けた湯飲みに向けられた。それで問いかけに気付いたのだろう、はおっとりと首肯する。
「折角入れる事が出来たのに、私が出て行く時、付いて来られると困るから」
布団に倒れ込んだリドルからするりと離れたは視界から消え、そして部屋の中からも音無く立ち去った。
「何、故……」
どうして、自分がこんな目に遭わなければならない。そう叫ぼうとした咽喉がようやく搾り出した言葉を声にする。
瀕死の蛇のように畳の上を這い、息を切らしながら障子の前まで辿り着くが、最悪の予感に指先が震えた。本能は既に自分の置かれている状況に怯えていたが、理性が現実の許容を拒否している。
どうにかして此処から脱出しなければ、あの子供の元から逃げなければ、脳から発せられたその指令を実行すべく障子を開くが、予想通りの現実に思わず壊れた笑いが漏れる。
リドルの目の前に広がっていたのは、剥き出しの冷たい地層だった。