君は僕をどうしたいの?
腰に回された腕は弟と同じ現役の高校生とは思えない程細く、頼りない。それでも力一杯抱きついてくる恋人に声を掛けると、動かないようにと言われた。
腰の前で組んだ両手から腕まで力を入れて抱きついてきたのは嬉しいが、出来れば正面から抱きついて欲しかったなと苦笑する。
「何やってるんだよ、続兄貴」
「ぼくではなく、君に聞いてください」
丁度リビングの前を通り縋った下の弟が、幸せオーラを醸し出している続を不審な目で見上げ、その背中にひっついている一学年上の男にもう一度声を掛けた。途端に胴を締め付けていた腕は緩み、力が抜けていく。背中で感じた呼吸は多少荒くなっていた。
「先輩、人の家のリビングで何やってるんだよ」
「何って、見れば判るだろ」
「スキンシップなら兄貴の部屋でしろよ」
「えー」
続の背中に抱きついたまま文句を垂れたは、諦めたようにそこから離れて小さな溜息を吐く。頬が多少赤くなっているところを見ると、全力で抱きついたのだろう。
大きな溜息をもう一度吐いて、少年は続の背中に凭れた。だから、イチャイチャするならリビングではなく、そう言おうとした終よりも先に、疲れた表情をしていたが真剣な表情で口を開く。
「いいか、終。これはスキンシップじゃない。おれは真剣に、続先輩にジャーマン・スープレックスをキメようと頑張っていたんだ」
予想していなかった言葉に空気が凍る。終はあまりにもあんまりな表情をしている兄に対して、笑うべきなのか、それとも肩を叩いて同情してやるべきなのか、感情を揺さぶられて引き攣った横隔膜と戦闘しながらも考えていた。
そんな空気にした当人は黙り込んだ二人を無視して、は階上から現れた竜堂家の末弟を捕捉。大人しく腕に収まる小さな体に頬擦りしていた。対恋人のように、プロレス技をかけようとする気配は微塵もない。余は純粋な抱擁を受けていた。
数秒後、続の表情を横目で確認した終がついに堪え切れずに噴出してしまい、続に殴られる事になる。