それは恋ではなく好奇心
事の始まりは単純で、いつも通り裏道を歩いていたらいつも通り柄の悪い男に絡まれて、いつも通りの対応をし終えたところに、上記のような声が掛かってきたのである。
声のした方へ振り返れば、一人の青年が眉根を寄せて続を見上げていた。こんな薄暗い通りには似つかわしくない外見をした、良家の跡取りのような顔立ちをした男性だった。
「邪魔って言ってんだけど?」
しかし顔に似合わず言動は悪いようで、続の足元でうつ伏せに転がっていた男を蹴り起こすと、遠巻きに今までの出来事を観察していた男たちに連れて行けと顎で指図する。まだ成人して間もなさそうな青年にそんな事をされれば、普通は逆上して襲い掛かるのがこの辺りで必要とされる礼儀だったが、男たちは真っ青な顔で何度も頷くと転がっていた男を引き摺って何処かに行ってしまった。
一連の様子を黙って見ていた続は丁度男が転がっていた建物の前で立ち止まり、不機嫌そうな面をした青年が鍵を取り出す動作を眺める。彼はここに用があるのか、住んでいるのかしているようだった。
「ここに住んでいるんですか?」
ぴたり、と青年の動作が止まった。瞳には侮蔑と憤怒、口を開くかと思ったが青年は何も言わずにドアを開け、何も言わずにドアの向こうへ行き、何も言わずにドアを閉めてしまう。しばらく続がその場で立っていると、建物の中から大音量のハードロックが聞こえてきた。
そこまで確認して続はビルの隙間から見える狭い空を仰ぎ、光の溢れる大通りの方へと足を向ける。気が向いたらまた此処に来てみようという思いを、誰にも告げず胸にしまって。