曖昧トルマリン

graytourmaline

今日は絶食二日目です

 高校生男子なんてものは云わば三大欲の塊のような存在である。
 早弁買い食いは当たり前、授業中は昼寝の時間、そしてその二つが満たされていれば余った欲は全て下半身へ回されるという無茶苦茶な体の造りをしているのだ。少なくとも年下の恋人に押し倒されている男はそうに違いないと考えている。
「大丈夫だって、絶対痛くしないから!」
「お前の大丈夫なんて一切信用できるか馬鹿野郎。それに何度言っても無駄だ、今日のおれは体調の関係で無理だ」
「何でだよ、この間いいって言っただろ!」
「この間はこの間、今は今」
「うわ大人って汚え!」
 騙されたと喚く終に、は今日はアノ日だとやる気のない顔で答えてやった。途端に猛烈に抗議するこの子供は果たして「アノ日」が何の日なのか具体的に理解しているのかどうか。どの道、両者は男であるので現時点では必要のない知識といえばそれまでなのだが。
 何にしても今日は先日より襲う一身上の都合で恋人らしい行為が出来ないと告げると、自分に跨っていた体を無理矢理退けて早足で部屋を出た。終の文句を無視して隣の部屋のドアを開けると、タイル張りの床から生えた椅子に座り込む。自室では相変わらず少年が詐欺だ何だと騒ぎ立てていた。
 5分後、自室のドアを開けると枕が飛んできた。安物の枕は結構重く、一瞬首が変な方向へ曲がりそうになる。最低だとか浮気してやるとか色々言われた。
「待て、終。浮気はやめてくれ、流石におれでも傷付く」
「じゃあ大人しくヤられろ!」
「……判った。判ったよ」
 勝ち誇った笑みを浮かべる恋人の脳天をカチ割りたい衝動に駆られながらも、表面上はそれをひた隠しなんでもない風を装いながら但し初めに言わせてくれと言葉と枕を投げ返す。
「生憎昨日からおれは下痢気味だ。が、しかし、終がそこまで言うなら相手してやる」
 かつて、この元気の塊みたいな恋人がここまで固まった様子を見たことがあっただろうか。いや、ない。
 想像力豊かなお年頃なので恋人の言葉をリアルに想像してしまったのか判らないし、判りたくもないが、先程の勢いは完全に消えてやっぱり今日はいいとの言葉を聞いて、男は踵を返す。隣にある部屋、トイレに向かうためだった。