曖昧トルマリン

graytourmaline

文庫本第九巻中表紙

 濡れた髪のまま上半身裸の状態で書斎のドアを開けると、そこには同僚であり恋人でもある竜堂始が何とも気持ち良さそうな顔をして眠っていた。
 ここの兄弟はその奇妙な名前と美形揃いという事で有名なのだが、その長男の恋人は実は自分のような男であるとか、何度か校内で襲ってアレでアレな行為に及んだ、何てことは自分しか知らない。
 というよりも、知られていては困る。始は当然として、自分の首まで飛ぶ、その後下手をしたら彼の兄弟に物理的に飛ばされる。
「黙って立ってれば文句付けれない美丈夫だってのに」
 歳相応の色気はあるがインテリでストイックに見える外見に反し、この男は性欲の塊だった。化物レベルと言えばいいのか、否、事実化物なのだが。
 そういうも校内では有名な冷酷教師として名を馳せてはいるが、自宅では無精の塊だったりするので、つくづく生物の見た目というのは当てにならないものである。
「ああ、畜生、メンドクセ。こんなの無視してメシにしよ」
 その性格故に、彼は恋人と一緒にランチ。なんて事は微塵も考えない。
 あらかじめ買っておいた固形食品の箱を空け、ブロック状の食品を取り出して胃に収める。冷蔵庫で冷やしてあったミネラルウォーターの最後の一本を飲んで、今日の昼食は終了。
 1分に満たない食事の後、は何か思い付いたのか分厚い上着片手に書斎に戻り、未だ眠っていた恋人の肩にそれを優しく掛け、閉まっていたカーテンを開ける。
 暖かい日差しを全身に受け、太陽の光に眩暈を感じながらもエアコンの電源を切った。リモコンと扇風機を隠し、全ての窓が施錠されている事を確認してから部屋を出て、そのドアにも鍵をかける。
 念の為、廊下側に開くドアの前には、態々別の部屋から持ってきた箪笥をバリケードとして配置しておいた。
「さ、今日はホテルにでも泊まるか」
 着替えたが自宅を出た一時間後、始はサウナもとい、灼熱地獄の書斎の中で目覚めることになった。
 翌日、彼は始に朝一番に校内で発見され、空き教室に無理矢理連行される事となる。