努力で補える限界を超えた領域
一つ目は、ハムとチーズ。
二つ目は、シイタケとシメジの入ったオムレツ。
三つ目は、コンビーフのマヨネーズ和え。
四つ目は、カボチャとエノキのマスタード和え。
サンドイッチを作ったと言って食卓に並ぶのは、いつもこの組み合わせだ。
彼は別に料理が下手という訳ではない、出来ない訳でもない。繊細さはない大味の男の料理だが、洋食も和食も中華もある程度は作る事が出来るはずである。
では、何故、サンドイッチに限ってこのレパートリーなのだろうか。
思い切って、余はある時尋ねてみた。何故、サンドイッチのバリエーションがこれほど少ないのかと。
すると、は困ったような笑みを浮かべて、少し待っておいでと穏やかに言いキッチンへと消えた。
十分後、彼が持ってきたのは、サンドイッチの乗った皿。
「作れない訳じゃなんだよ」
目を赤くして先程より鼻声で差し出したサンドイッチは、ボイルされた海老と刻んだ生のトマトとタマネギの組み合わせ、そして典型的なBLTサンドがそれぞれ二切れずつ。
「でもおれは食べられないんだ」
小首を傾げながらコーヒーを継ぎ足す青年の顔色は、先程よりも優れない。
「どうにも、軽度のアレルギーにかかっていてね。未だに治らないんだよ」
「アレルギー?」
「生の野菜や果物が駄目なんだ。食べるのは勿論、匂いもね」
蕎麦や卵と同じような感じだって思ってくれればいいよ。目はタマネギの所為だけど。
そう言いながら、は鼻を啜った。サンドイッチの具を拵えた所為で、そのアレルギーが発症してしまったらしい。
「嫌いじゃないんだ、食べられないだけで。だから、そんな顔しなくていいよ」
謝罪の言葉を紡ごうとした余に、青年は自分が今作ってきたサンドイッチを余にくわえさせて黙らせた。
ちゃんと下味の付いた海老とトマト、少し辛いタマネギの味が口いっぱいに広がる。
相変わらず、従姉の料理とは違う豪快な味がした。